目次
はじめに
「よく見える配信」は機材の“数”より“光の質と置き方”で決まります。明るさ・色(色温度/演色性)・方向(当て方)・安定性(フリッカー/騒音)を押さえれば、1灯でも驚くほど改善します。本記事では、予算や部屋の広さに合わせた現実的な選び方と、誰でも再現できる配置を具体的に示します。

1.ライブ配信の照明、まず知るべき4つの基礎
(1) 明るさ:距離の二乗則
ライトは被写体から離れると急激に暗くなります。まず「ライトを近づけて大きくする」ことが最強の省電力&高画質化。迷ったら“近く・大きく・やわらかく”。
(2) 色温度(CCT)と統一
日中の自然光はおよそ5000~5600K、室内の電球色は2700~3200K。複数の光が混ざると肌色が転びます。配信では「照明に合わせてカメラのWB(ホワイトバランス)固定」が基本。
(3) 演色性(CRI/TLCI)
CRI 95以上/TLCI 95以上が目安。数字が高いほど肌・商品色が正しく出ます。安価でも演色性の高いモデルを選ぶと編集がラク。
(4) 安定性(フリッカー)
調光方式は「DC調光」や高周波PWMが望ましい。カメラのシャッターが1/50~1/60付近なら大抵安全ですが、ハイスピード撮影やモニター混在では注意。商品ページで“flicker-free”を確認しましょう。
照明機材の種類と向き・不向き
リングライト
・長所:目にキャッチライト、設置が簡単、机上でも省スペース。
・短所:メガネ反射が出やすい、正面からの平坦光で立体感が出にくい。
・向き:顔出しのトーク配信、ビデオ会議。
薄型LEDパネル(エッジライト型/面発光)
・長所:やわらかい面光、設置・角度調整が簡単、ファンレスも多い。
・短所:出力は控えめで遠距離/全身には不向き。
・向き:デスク配信、手元作業、2名トークのキー&フィル。
COBタイプ(スポット光源/Bowensマウント対応が一般的)
・長所:明るい、モディファイアの自由度が高い(ソフトボックス/グリッド等)。
・短所:ファン音が出る機種あり、直だと硬い光。
・向き:背景を明るくしたい、全身や商品撮影、立ち配信、グリーンバック。
RGBライト(フルカラー)
・長所:背景の雰囲気づくり、ブランドカラー演出、アクセント光に最適。
・短所:キー光としては演色性や出力が不足する場合あり。
・向き:背景演出、リム/エッジ、プロダクトの差し色。
小型チューブ/スティックライト
・長所:設置自由、足元や背面、棚の中などに仕込める。
・短所:単体では出力不足。
・向き:アクセント、背景の層づくり。
モディファイア(光の質を変える道具)
ソフトボックス(長方形/オクタ/パラボラ)
・肌の質感を整え、影をやわらかく。オクタ55~90cmは汎用性が高い。
グリッド(ハニカム)
・光の広がりを抑えて背景への回り込みを防止。狭い部屋で重宝。
アンブレラ(透過/反射)
・軽量・安価。透過はやわらかく、反射は指向性を保ちつつ広げる。
ディフューザー/レフ板
・テカリ防止や影の起こしに。白レフは自然、シルバーはコントラストUP。
背景用ライト/エッジライト
・被写体と背景の分離感を作る。RGBで色味を足すと“高見え”。
シーン別おすすめセッティング(再現しやすい順)
A)デスク配信(1人・座り/省スペース)
・機材:薄型LEDパネル1~2枚+リングライト(任意)
・配置:
①キー(主)…顔の45°斜め上、距離60~100cm、色温度5000~5600K
②フィル…反対側に弱め(キーの1/2~1/4の明るさ)
③背景…小型RGBで壁に淡く色を乗せる(彩度控えめ)
・ポイント:メガネ反射はライトを少し高くし、顔をやや下向きに。WB固定。
B)商品レビュー(手元+顔)
・機材:COB100W前後+小型パネル
・配置:
①トップライト(ソフトボックス+グリッド)で手元に斜め落とし
②顔用にパネルを低めの明るさで補助
③背景にアクセント(商品パッケージの色とケンカしない色を)
・ポイント:天板はマット推奨。反射が強いなら拡散を1枚足す。
C)2人トーク(横並び)
・機材:パネル×2(各人のキー)、COB or パネルで背景用
・配置:各人に45°のキー、中央から軽くフィル。背景は均一に1灯。
・ポイント:2人の明るさと色温度を完全一致。椅子の距離も統一。
D)立ち配信/全身(3~4mの奥行き)
・機材:COB×1~2+大きめソフトボックス、背景にRGB
・配置:キーをやや高めから、背面に弱いリム。床の影が強ければレフ板で緩和。
・ポイント:出力が足りない時は“距離を詰める”“ISO少し上げる”“絞り開ける”。
E)グリーンバック
・機材:キー(COB or パネル)+背景用ライト×2(左右から均一)
・配置:被写体と背景の距離1.5m以上。クロマ側はムラが出ないようフラットに。
・ポイント:被写体のキーと背景の明るさ差はおよそ+0.5~1段。色かぶりに注意。
音・熱・フリッカーの落とし穴対策
・ファンノイズ:マイク近くにファン付きライトを置かない。ファンレスや静音機種を選定。
・フリッカー:カメラのシャッターは1/50~1/60から。ライトは“flicker-free”表記を確認。
・熱:COB直射は熱を持つ。距離をとる、出力は必要最小限に。
・電源:タコ足は避け、定格オーバー厳禁。ケーブルは足元に這わせない。
予算別おすすめ構成(部屋の広さ別の目安)
※特定機種名は例示にとどめます(同等品で可)。
■机1台のデスク配信(~2畳)
・1万円台:リングライト1+小型パネル1、WB固定で質感UP。
・3~5万円:薄型パネル2(キー/フィル)+小型RGB1(背景)。
■ワンルーム配信(~4畳)
・3~6万円:COB 60~100W+55~80cmソフトボックス+パネル1。
・8~12万円:COB 100W×1+パネル2+RGB1~2(背景・リム)。
■全身/商品も撮る(~6畳以上)
・10万~:COB 100~150W×2、90cm以上ソフトボックス、背景用RGB×2、グリッド一式。
選定基準
・CRI/TLCI 95以上、CCTは可変(3200~5600K以上)。
・調光はノイズ/フリッカー対策済み。
・Bowensマウント対応だと拡張性が高い。
・三脚は安定重視。Cスタンドは安全で省スペース。
スマホ配信でも“高見え”にする実践ワザ
・WB(ホワイトバランス)固定:オート任せにしない。
・露出固定:明るさが揺れない。
・肌のテカリ対策:ティッシュで押さえる/拡散を1枚足す。
・背景に奥行き:背景ライトを弱く入れて色の層を作る。
・モニター光の混色回避:モニター輝度を一定に、色温度は6500Kに統一。
買う前&配信前チェックリスト
買う前(10項目)
1)演色性(CRI/TLCI)
2)色温度可変域
3)調光方式(フリッカー)
4)ファン音
5)出力(W)とルクス値
6)モディファイア互換
7)電源(AC/バッテリー)
8)重量と設置スペース
9)スタンドの剛性
10)リモコン/アプリ制御の有無
配信前(15項目)
1)WB固定
2)露出固定
3)ライト位置45°
4)目より少し上から
5)フィルはキーより1~2段暗く
6)背景ムラ確認
7)メガネ反射/テカリ確認
8)フリッカーチェック
9)マイクとファンの距離
10)電源容量確認
11)ケーブルの養生
12)非常時の消灯手順
13)予備電球/バッテリー
14)室温管理
15)本番前のテスト配信
よくある失敗とリカバリー
・顔が白飛びする → 出力を下げる/距離を取る/ディフューザー追加。
・くまが強い → ライトを高すぎにしない、正面寄りに下げてやわらかく。
・肌が不自然な色 → 混ざった照明を切ってWB固定。
・背景が真っ暗 → 背景ライトを追加、壁から40~80cm離してふんわり照らす。
・メガネ反射 → ライトを上げる/左右に振る/偏光レンズは外す。
・影が硬い → ソフトボックス化orライトを被写体に近づける。
置き場がない人の省スペース設置術
・クランプ式アームで机に固定(床面積ゼロ)。
・ブームアームで真上から(手元配信に有効)。
・三脚は壁際、Cスタンドで足の向きを工夫。
・配線はベルクロで束ね、床は養生テープで固定。
実地で試したい人へ:レンタルスタジオ活用のコツ
配信機材は「試してから買う」が失敗しづらい方法です。
大阪・西中島の「Rental Photo Studio Crit Lab(クリットラボ)」では、自然光・白ホリ・動画/配信対応のレイアウトが可能で、ライトのセッティング相談も(要事前連絡)対応できます。部屋の広さや壁色による“見え方の差”を体感すると、購入判断が早くなります。※スタジオ名は実在の施設のみ記載しています。
まとめ(これだけ実行)
1)ライトは「近く・大きく・やわらかく」。
2)WB/露出は固定、混ざる光は切る。
3)キー45°+弱めのフィル+背景に薄い色で“高見え”。
4)ファン音/フリッカーは購入前に要チェック。
5)迷ったら小型パネル2枚から始め、必要に応じてCOB+ソフトボックスへ拡張。
次の一歩
・まずは部屋の照明を消し、LED1灯を顔の斜め上に。
・WB/露出を固定してテスト配信。
・必要に応じてフィルと背景ライトを追加。
・購入前にスタジオで現物を試すと失敗が激減します。
以上、初心者からプロまで役立つ「ライブ配信の照明」総合ガイドでした。照明は“難しい専門機材”ではなく、“視聴者の体験を良くするための道具”。今日から一歩ずつ、見え方を整えていきましょう。